たゆた・う【揺蕩う】
(1) かなたこなたへゆらゆら と動いて定まらない。ただよう。
(2) 心が動いて定まらない。ためらう。躊躇する。
(広辞苑 第七版より)
テーマに込められた二つの意味
1. 変化する街並み(過去、現在、未来のまち)を知る。移り変わりを想像することで、一回性(今、この場所)を大切にしたい。
→まちへの想い。まちの歴史を知る。
2 .まちなかでアートに出会う。文化に親しみ、他者と出会う。
→アートのちから。人々の交流。多様性を考える。
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変わりゆく街並みと共に考える
日々の生活の中で、わたしたちが目にし、耳にしている情報はSNSやインターネットの登場以降、テレビやラジオの普及や紙媒体に依る時代に比べて著しく変化してきました。今や刻々と変化する世界情勢や流行の音楽、映画、ファッション、まちのグルメ情報などが、ほとんど並列に、定時になるとスマートフォンに着信します。一方で、個人の実生活の事柄も含めれば、今日会った人は何色の服を着ていたとか、夕食のサラダがいつもよりおいしい感じがしたとか、まちのお店が新しくなっていたとか、これらの情報もわたしたちは知覚しています。こうした様々な情報が波のように多方向からやってくる今日、それによって気持ちが揺れ動いて定まらなくなる状態のことを「たゆたう」と表現してみましょう。「たゆたう」はときに心地よく、ときにもどかしく、快不快の混在するような状態であるはずです。また「定まらない」ことは決断を先延ばしにする楽観的な態度だと批判されることもあるでしょう。しかし、次から次へと情報のあふれる現代において、移り変わりの只中に立ち止まってじっくりとものを考える、想像する時間というのはとても尊い時間でもあります。
とよはし都市型アートイベントseboneでは、変わりゆく街並みをその場で実感しながら、まちなかで展示されるアート作品やワークショップ、音楽ステージを体験し、味わうことができます。展示会場の一つである「まちなか図書館」は2021年11月に開館しました。「まちなか図書館」は現在進んでいる豊橋駅前大通二丁目地区市街地再開発事業の一角を担い、まちの人々が図書を通して交流する場として活躍しているといえるでしょう。また、牟呂用水の上に建つ水上ビルは戦後豊橋のまちなかの景観を今日まで伝え続けている貴重な建築です。その建物の内外で展示される作品や商店街のお店を巡りながら歩くことで、かつてのまちなかの記憶に触れるきっかけにもなるでしょう。
ドイツの思想家、ヴァルター・ベンヤミンは『複製技術の時代における芸術作品』という文章のなかで「今、その場所」でしか感じられない、再現性のない空気感のようなものを「アウラ」と表現してこのように述べています。
ある夏の日の午後、ねそべったまま、地平線をかぎる山なみや、影を投げかける樹の枝を目で追う-これが山なみの、あるいは樹の枝のアウラを呼吸することである。(ヴァルター・ベンヤミン著 佐々木基一編集・解説(1999)『複製技術時代の芸術』晶文社)
本年のとよはし都市型アートイベントseboneは9月3日(土)、9月4日(日)の2日間の開催を目指しています。まちなかで解体中のビルや建設中のビルを眺め、その変わりゆく街並みの稜線を目で追うことができるはずです。夏の終わりにゆったりと水上ビルを歩き、目には見えない水の流れに耳を澄まして、波にたゆたうようにまちを巡ってみましょう。
伊藤拓郎(sebone実行委員)